便秘

便は健康のバロメーター

便は健康のバロメーター。朝、すっと便が出ると、一日気分よく過ごせるのに、便秘の日はなんとなく気分がイライラしがち。そんなことありませんか?

便は、食べた物からからだに必要な栄養素が吸収された後の「残りかす」です。残りかすがからだの中に溜まっていたら、体調に悪影響が及ぶのも当然。

「1日1回、朝食後にいきまず排便」が理想的。そのためのエッセンスを紹介しましょう。

こんなときはすぐに受診! 〜危険な便秘とは〜

本題の前に"危険な便秘"について。次の場合は、自己療法で対処せず、すぐに受診してください。

強い腹痛や吐き気、発熱などを伴う...直ちに医療機関での治療が必要な腸閉塞や大腸の潰かいよう瘍・穿せんこう孔、あるいはクローン病などの特殊な病気も考えられます。

便に血が混ざる...痔じ の悪化かもしれませんが、大腸がん、直腸潰瘍の可能性もあり、詳しい検査が必要です。

便秘の原因

食べ物の消化吸収と便秘の関係

便秘は、便が腸の中を進んで行くなかで水分が吸収され少なくなることと強く関係しています。   
口から入る食べ物・飲み物の水分は1日約2リットル。それに、胃腸から分泌される消化液が加わりますので、大腸にはかなり大量の水分が流れこみます。その水分の大半は、大腸を通過する際に吸収されて、食べ物の残りかすが適度な硬さの塊になります。大腸内での水分吸収量が少し増えるだけでも便が硬くなり、便秘になりやすくなります。

便秘のタイプにあわせた治療が大事

便秘の原因は幅広く、原因が異なれば治療法も違います。そこで、原因別に4タイプの便秘に分けて解説しましょう。

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①大腸や直腸の働きの異常による「機能性便秘」

最も多いタイプの便秘です。生活習慣やストレス、加齢などの影響を受けて、大腸や直腸・肛門の働きが乱れる結果、起こります。よりわかりやすいように、さらに三つに分けて解説します。

①-1 弛緩性便秘...大腸は、その内容物(食べ物の残りかす=便)をぜん動運動によってコロコロ転がし、少しずつ水分を吸収しながら直腸へと運びます。大腸を動かす筋肉が緩んで、ぜん動運動が弱まると、なかなか便が運ばれないために便秘になります。高齢者が便秘しやすい原因の一つです。また、朝食をとらなかったり、運動不足などの乱れた生活習慣による便秘も、これに該当します。

①-2 痙攣性便秘...大腸のぜん動運動に連続性がなくなり、便の通過に時間がかかり過ぎて起こる便秘です。ストレスの影響が強いと考えられています。

①-3 直腸性便秘...運ばれてきた便が大腸から直腸に入ると、直腸のセンサーが働き便意を催します。そこでトイレに行くと、ふだんは肛門を閉めている肛門括約筋が緩み、排便に至ります。ところが、便意を習慣的にがまんしていると神経の感度が鈍って、直腸に便が入っても便意を催さなくなります。女性が便秘しがちな理由の一つです。また最近、温水洗浄便座の水を肛門の奥まで入れるために神経の感度が鈍り、便秘になる人が増えています。

②便の通過が物理的に妨げられる「器質性便秘」

大腸がんや手術後の癒着、炎症性疾患(潰かいよう瘍性大腸炎やクローン病)などのために、大腸の中を便がスムーズに通過できずに起こる便秘です。女性で、直腸の一部が腟ちつに入り込んでしまう直腸瘤りゅうも、よくある原因です。このタイプの便秘では、まず元の病気を治すことが基本です。

③全身の病気の症状として起こる「症候性便秘」

甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢こうしん進症では大腸のぜん動運動が弱くなり、便秘がちになります。いずれも女性に多い病気です。女性の場合、病気とは別ですが、生理や妊娠中にホルモンの影響で便秘になりやすくなります。このほか、神経損傷や糖尿病の合併症などで、神経の働きが不調になった場合も、このタイプの便秘が起こります。

④別の病気の薬の副作用で起こる「薬剤性便秘」

抗うつ薬、抗コリン薬(ぜん息や頻ひんにょう尿、パーキンソン病などの薬)、せき止めなどは大腸のぜん動運動を抑えるので、副作用で便秘になることがあります。

便秘にきちんと対処しないと...

「たかが便秘」と甘くみていると、大腸の中で便がますます硬くなり、症状が余計ひどくなる「便秘の悪循環」が生じてしまいます。さらには次のような「便秘の合併症」とも言える弊害が生じてきます。

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...便秘のために便が硬くなると排便時に肛門を傷付けやすくなります。また、いきみによりいぼ痔も大きくなり、排便時に出血します。肛門の痛みや出血のおそれのために便意をがまんしていると、便がさらに硬くなり、状態はますます悪化してしまいます。

脱肛、直腸粘膜脱...便が硬くて排便時にいきむことで痔核かくの血管が膨れ、痔核が次第に肛門の外に出てきます(脱だっ肛こう)。これが繰り返されると、直腸の粘膜も一緒に肛門外へスライドしてきます(直腸粘膜脱)。

糞ふんべんそくせん便塞栓症...便が直腸内に溜まって固まり、指や器具でかき出さなければならない状態です。このとき、直腸の粘膜と便のわずかな隙間から液状の便が漏れてきて、下痢と間違われることがあります。

大腸の潰かいよう瘍・穿せんこう孔、腹膜炎...大腸内に便が滞とどこおっていると、潰瘍ができたり、まれには穴があいて(穿孔)、そこからおなかの中に便の細菌が広がり、腹膜炎になることがあります。

その他...便秘と肌荒れが関係していることは多くの女性が実感されているのではないかと思います。高齢者の場合、認知機能障害(認知症)のような症状が便秘のために現れることも少なくありません。これらは、大腸のバリア機能(便中の腐敗物質や細菌などが体内に侵入するのを防ぐ機能)が、便秘のために破綻する結果と考えられます。

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発行:一般社団法人 日本臨床内科医会