私のリビングウィル

「私のリビングウィル」小冊子を用いる
日臨内のACP活動指針
日本臨床内科医会 2020

【はじめに】

日本臨床内科医会は2019年1月よりACP(アドバンス・ケア・プランニング)における「私のリビングウィル」小冊子の活動を開始しました。医学の進歩が目覚ましく「遠ざかる死・問われる生」がキーワードになる長寿社会になり、私たちはいかに命を全うするかが課題になっています。 ACPは高齢化多死社会では重要であり、2018年4月に厚生労働省と日本医師会はACPの取り組みを始め、一部の診療活動においてACPを保険収載しています。 人生最期の医療をどのようなものにするかを患者・家族と共に考えるACPは、実臨床に日々携わっている日臨内の会員にとっては重要な活動です。ACP活動を行うのは、長年に亘って患者・家族に寄り添って診ている「かかりつけ医」である我々が最適と思われる。かかりつけ医としてACP活動を行うことで、患者・家族と生きがいのある生そして尊厳のある死を共有することが可能となります。

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【かかりつけ医宣言】

2018年日本臨床内科医会は「かかりつけ医宣言」を発表し、本会の立ち位置を明らかにしました。 『日本臨床内科医会会員は、幅広い医学的視野・知識を有し、実地臨床医としての最新の医療を提供するだけではなく ①生活習慣病などの適切な管理、感染症予防、軽度認知症状やがんの早期発見、体力を維持するための生活指導などを通じて健康寿命の延伸に努めます。 ②高齢者特有の病態を理解し、患者さんの生きがいを考慮して診療にあたり、人生の最終段階まで支えます。 ③常に患者さんに寄り添い、地域で安心して生活できるように努めます。』 ACP活動は、患者の最終段階の医療の自己決定支援を行うことであり、②で述べられて いる人生の最終段階まで支えるという重要な診療行為です。

【ACP】

●ACP(Advance Care Planning)の意味
ACPとは、将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、本人を主体に、その家族等、及び医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人の意思決定を支援するプロセスのことである。本人の意思は変化し得るものであることから、医療関係者より適切な情報提供と説明がなされた上で、本人を主体にその家族等、及び医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人の意思を共有しておくことが重要です。ACPは、その都度の話し合いを記録し、それを繰り返すプロセスであり、そのことによって最大限本人の意思の実現を図るための手段です。

●ACPの実践
ACPは患者を人として尊重した意思決定の実現を支援するプロセスなので、ACPの実践は、患者と家族等と医療・ケアチームは対話を通し、患者の価値観・生きる目標・死生観などを共有し理解した上で、意思決定のために協働することが求められます。ACPの実践は、患者が人生の最終段階に至り意思決定が困難となった場合も、患者の意思をくみ取り、患者が望む医療・ケアを受けることができるようにすることです。患者の意向に沿った、自分らしい人生の最終段階における医療・ケアを実現し、患者が最期まで尊厳をもって人生を全う出来るよう支援が必要です。

●ACPの対象とACPを開始する時期
ACPの主体は医療・ケアを受けるすべての人であり、ACPはすべての世代を対象としています。実臨床においてはがん・非がん患者を問わず生命を脅かす疾患に罹患している場合いは、世代を問わず、病初期からACPを開始することが望ましい。
高齢者は要介護の段階や健康の状態を問わず、出来るだけ早期にACPを開始することが大切です。

●地域包括ケアにおけるACP、「かかりつけ医」の役割
住み慣れた地域で患者が尊厳を保ち、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域包括ケアシステムの構築が推進されています。いかなる健康状態にあっても、療養の場や医療・ケアの選択において患者の意思が尊重され、その人に関わる多職種が患者の価値観、死生観、人生観を共有した上で本人の尊厳を守るチームとなり、ACPを実践することが求められています。
ACPは人生の様々な過程に寄り添うプロセスである。そのため、患者の長年に亘る健康状態を把握し、家族や住み慣れた地域の医療・介護の状況について精通している「かかりつけ医」として、日臨内会員はACPの中心的役割を担うことが期待されています。

●ACP活動の進め方
医師は人の死と深くかかわる立場にあります。しかし死について患者と話し合う文化が我が国で十分根付いているとは言いがたく、ACPのきっかけを見出すのが難しいこともあり。また、家族や医療チームが加わって、何度も話し合いの場を持つことも、日常診療の時間的制約から必ずしも容易ではありません。
そのような中で対応策として、①「私のリビングウィル」小冊子を待合室において患者や家族の興味を引く、②ACPを実践している旨の院内掲示をする、③患者の身内、親しい人、共通の知人などの病気や死を契機にするなどの方法で、無理なく自然な形でACPを開始してみることを提案する方法もあります。
また最初は、家族や医療チーム参加という形にとらわれず、主治医と患者との信頼関係の中において実践し、徐々にACP本来の形を作り上げても良いと思います。
ACPに診療報酬がリンクすることに関して、あたかも終末期の医療費削減がACPの隠された目標であるかのように誤解されることがあってはなりません。その意味においても、患者にとって一番身近にいる専門的な理解者であり、相互信頼関係が成立しているかかりつけ医こそが、ACP本来の目的に則ってこの活動を進める主体となるべきと考えます。

【私のリビングウィル】

2019年1月、日本臨床内科医会は「私のリビングウィル」小冊子を15,000の会員クリニックに送付しACPの普及活動を開始しました。
この小冊子は、ACP活動の過程で終末期医療をどのようにしたいかを患者・家族と話し合い、事前指定を書面にて明らかにするためのツールです。「私のリビングウィル」は意識や判断能力の回復が見込めない状態になった場合をあらかじめ想定していただいて、その際にはどのような医療を望まれるか、その意思を示していただくもので、次の5つの項目の一つを選択していただきます。その項目は、
① 工呼吸器、心臓マッサージ等生命維持に最大限の治療を希望する。
②人工呼吸器等は希望しないが、高カロリー輸液や胃瘻等により継続的な栄養補給を希望する。③継続的な栄養補給は希望しないが、点滴等の水分補給は希望する。
④水分補給も行わず、最期を迎えたい。
⑤その他 である。
この小冊子は、ACPで求められている意思確認は一度だけではなく繰り返し行うことや、家族内で話し合って意思確認できるように配慮されています。
この小冊子を用いることで、医療者は患者・家族に人生最終段階のケアをどうするかの自己決定支援を行うと同時に、医療者は患者・家族から自己決定をしていただくことになります。

【まとめ】

日本臨床内科医会が行うACPにおける「私のリビングウィル」小冊子の活用は、ACPの根幹である人生の最終段階における医療をどのようにしたいかの意思決定支援となります。小冊子はACP活動の始まりにも有用なツールで、最期まで小冊子をとおして患者・家族と繰り返し話し合い、意思確認を行うことができます。
実臨床において、長年に亘って診察している患者の一人一人が良き人生を生き、自ら望む自分らしい最期を迎えることができるよう、日臨内はACP活動を通して患者の自己決定を支援します。 
日臨内はACP活動における意思決定ツールとしての「私のリビングウィル」小冊子の普及を図っていきます。

参考文献

  • WHO「緩和ケアの定義」2002
  • 日本老年学会「立場表明」2012
  • 日本医師会「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」2018
  • 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」2018
  • 日本老年学会「ACP推進に関する提言」2019
  • 日本医師会第ⅩⅥ次生命倫理懇談会「終末期医療に関するガイドライン(改訂版)」2019

2020年7月
日本臨床内科医会 近藤 彰・長尾 哲彦

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