日本臨床内科医会 - Japan Physicians Association

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第15回インフルエンザ夏季セミナーを開催しました

第15回インフルエンザ夏季セミナー(特別公演)

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平成29年7月16日(日)にインフルエンザ研究にご参加いただいた先生を中心にお集まりいただき、インフルエンザ夏季セミナーを開催しました。
昨シーズンの結果発表に続き、東北医科薬科大学教授の関 雅文先生と日本ワクチン学会理事の城野洋一郎先生に特別講演をお願いしましたので、その抄録をお送りします。

特別講演Ⅰ
インフルエンザに伴う細菌性肺炎の重症化機序と実際の対応を考える
~海外との比較も含めて~

東北医科薬科大学 感染症内科・感染制御部 教授 関 雅文先生

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インフルエンザは、「老人のともしびを消す病気」と呼ばれ、学童よりもむしろ高齢者にとってきわめて重要な呼吸器感染症と考えたい。毎年冬にインフルエンザウイルスが人々の間に流行することで発症するが、肺炎をはじめとする合併症で重症化する可能性が高く、注意が必要である。
インフルエンザに肺炎を合併して、重症化する機序としては、インフルエンザ感染初期の炎症性サイトカインや自然免疫の誘導がウイルスを排除する一方、かえってプロテアーゼなどの活性から、個体側の血管透過性を過剰に亢進させ、肺水腫を惹起する他、NETs (Neutrophil Extracellular Traps)に代表される好中球の同じく過剰な活性亢進が細胞障害性に働き、全体として多臓器不全が急激に進行するものと考える。 
治療に関しては、オセルタミビルの他、近年はラニナミビルやペラミビルなど長時間作用型の抗インフルエンザ薬が登場するに及んで、インフルエンザの治療法は大きく進歩した。一方、2009年のいわゆる新型インフルエンザと呼ばれたパンデミックによって、致死的な重症肺障害患者に対する対応を含めた、具体的な治療のコンセンサスが世界的に求められるようになり、基礎的研究とともに、ステロイドなど補助療法の成績も含めた、さまざまな臨床データが報告されるようになったが、いまだに決定打はない、と言っても過言ではない。基本は、抗インフルエンザ薬のできるだけ早期の投与であり、経静脈による高用量投与が、より望ましいと言えよう。
一方で、吸入薬も含めた抗インフルエンザ薬の予防投与も行われるようになり、我々の施設でも、当科による一括管理などで、より経済的かつ効果的に薬剤を予防投与することで、施設内のアウトブレイクを防ぐことも実証できた。
これらは、わが国の優れた保険診療システムによってなさせることで、抗インフルエンザ薬の備蓄計画なども含めて、海外諸国と比べても、きわめて恵まれた環境と考える。
今後さらなる抗インフルエンザ薬や予防法の開発が期待されている。

特別講演Ⅱ
インフルエンザワクチンの歴史

日本ワクチン学会理事 城野洋一郎先生

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本格的に開発された最初のワクチンは、ホルマリン不活化全粒子ワクチンであった。その有効性は、1945年に主に米国の軍隊での臨床試験でB型ウイルスの流行で証明された。その後、全粒子ワクチンの小児における副反応が問題視され、1960年代にスプリットワクチンが、1970年代にサブユニットワクチンが開発され、現在に至っている。その間、ワクチンの製造には、発育鶏卵が用いられて来ており、現在でもほとんどのワクチンは発育鶏卵で製造されている。
わが国でも、1951年に全粒子ワクチンが発売され、1962年に小中学校における集団接種が開始された。また、1972年にはスプリットワクチン(HAワクチン)に切り替えられた。その後、1994年の予防接種改正を機に集団接種は廃止されたが、2001年に二類疾病に指定され、高齢者を対象としたワクチン接種が開始された。また、2007年にはパンデミック対策として、沈降インフルエンザワクチンH5N1製造販売承認された。直近では、2つのB型ウイルスに対応するために、2015年に4価のインフルエンザHAワクチンが発売された。
 
インフルエンザワクチンの有効性

 最近、欧米では、CDCやECDCが陰性対象コントロール試験(Test Negative Control Study)という手法を用いて、インフルエンザワクチンの有効性をリアルタイムに検討しており、毎年1月過ぎには中間報告がなされている。これらの報告をみると、ワクチンの有効性はシーズン、対象者の年齢、地域などによって異なり、一定の有効性を示すことは困難であるが、H1とBについてはおおむね50%前後の有効性を示している。この手法では、ケースはインフルエンザを発症した対象であるので、有効性は発症防御を示している。一方、H3では有効性にばらつきがあり、特に2014-15年のシーズンでは低い有効性が報告されている。この年は、ワクチン株と流行株の間にミスマッチがあり、その原因はシーズン中のドリフトであった。また、日本以外では2013-14シーズンから2年連続で同じワクチンが使用されたことも低い有効性の原因であったとされている。また、2013-14, 2016-17には、ワクチン製造時に卵でウイルスを継代することで、流行株とは違った抗原性を持ったウイルスが選択されてくるために、ワクチンの有効性が低下した可能性が示唆されている。
 H1については、2009年からカリフォルニア株が使用されてきているが、最近の分離株に対してヒト免疫血清の反応性が低下してきている。このことに対応するために、2017-18年のシーズンには、ミシガン株が選択された。

インフルエンザワクチンの課題と今後の方向性

  有効性のところで述べたような現状から、全体的に有効性を向上させること、並びにH3の場合、卵順化やシーズン中のドリフトにいかに対応するかが、大きな課題となる。これらの課題に対して、まずはワクチン株と流行株のミスマッチをなくすために、サーベイランスの強化による候補株の選択肢拡大化、次世代シークエンス技術の応用、ウイルスの進化的解析とモデリングの応用などが進められている。しかし、期待される結果が得られ迄にはまだまだ時間がかかりそうである。したがって、卵順化やドリフトによるミスマッチが起こってもある程度対応できるワクチンとして、ハイドース、皮内接種、アジュバント添加ワクチンなどが欧米では登場し、効果を上げている。また、流行株の遺伝子情報を基に製造する組み換えHAワクチンも、現行ワクチンに比較して高い有効性を持つことが最近示された。B型インフルエンザでは、2015年にYamagata, Victoriaの2つの系統を含んだ4価ワクチンが認可された。しかし、欧米からの報告と比較すると、特に小児において我が国のワクチンに対する免疫応答が低い。ワクチン自体の免疫原性は変わらないと考えられ、この差は皮下と筋肉内という投与ルートの差に起因すると考えられる。今後、わが国でも筋肉内投与によるワクチン接種の検討が望まれる。
 わが国でも、皮内接種、組み換えHAワクチンの開発が行われ、承認申請がなされた。皮内ワクチンは現在審査中であるが、組み換えHAワクチンは承認申請が取り下げられた。国内では、ハイドース、アジュバントワクチンの開発は現時点では行われていない。 
 冒頭で述べたように、最初に実用化されたワクチンは全粒子ワクチンであったが、小児での副反応のため成人、高齢者での実際の有効性をきちんと確認しないまま、スプリットワクチンへと切り替えられることとなった。動物実験における全粒子ワクチンのスプリットワクチンに対する優位性は明らかであり、最近全粒子ワクチンを再評価しようとする動きが国内で起こった。小児における副反応を軽減できる可能性も見えてきたため、日本医療研究開発機構(AMED)のプロジェクトとして、再評価することとなった。

まとめ

 以上のように、現行インフルエンザワクチンは、ワクチン株と流行株の抗原性、免疫原性がマッチすれば一定の効果を持っている。しかし、さらに有効なワクチンを望む声も強く、種々の取り組みがなされている。インフルエンザワクチンは、毎年多くの人が接種を受ける必要があるワクチンであるため、安価で大量に製造できなければならない。その観点から、全粒子ワクチンの再評価が始まった。もし全粒子ワクチンの有用性が確認されれば、スプリットワクチンに代わる基本的なワクチンと成り得ると考えられる。その上で、付加価値は高いがより高価であるという新規ワクチンが特定の集団で使われていくという構図が、今後の方向性として望ましいのではないかと考える。