2013-2014シーズンの インフルエンザ流行状況について

第12回インフルエンザ夏季セミナーより

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日臨内インフルエンザ研究に参加された先生を中心にお集まりいただき、第12回インフルエンザ夏季セミナーを平成26年7月20日(日)第一ホテル東京にて開催しました。
このセミナーでは、毎年前年の日臨内インフルエンザ研究の成果が発表されるとともに、特別講演としてインフルエンザに関連する分野で最先端の研究をされている先生にご講演いただいています。
DSC_0057.jpg今回のセミナーのサマリーを2回に分けてお知らせします。
第一回目は、2013-14年シーズンの日臨内インフルエンザ研究の成果です。

(日臨内インフルエンザ研究特任理事 岩城紀男)

 

1. インフルエンザの診断とワクチン接種によるHI抗体価の推移

久留米臨床薬理クリニック顧問 池松秀之

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日本臨床内科医会のインフルエンザ研究では、ウイルス分離および血清抗体価の測定を継続して実施している。2013-14年流行期はウイルス分離のために採取された検体の総数は1259件で、ウイルスが分離された症例数は739例、患者年齢は0歳から98歳、型・亜型の内訳は、H1N1pdm09 233例、H3N2 142例、B 326例であった。

迅速診断キットでA型と判定された402例中ウイルスが分離されるかPCRで陽性であったのは375例(陽性試験予測率93.3%)で、迅速診断キットの有用性は今シーズンも高いと考えられた。ウイルス分離あるいはPCRのどちらかでウイルスが検出された症例における迅速診断キットの感度は95%を越えていた。

2013-2014シーズンのインフルエンザのワクチン株は、A/California(カリフォルニア)/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09、A/Texas(テキサス)/50/2012(X-223)(H3N2)、B/Massachusetts(マサチュセッツ)/02/2012(BX-51B)(山形系統)が用いられたが、これらのワクチン株に対するワクチン接種前のHI抗体価40倍以上の割合は、272例においてH1N1pdm09 40.4%、H3N2 68.0%、B 50.7%であった。ワクチン接種後のHI抗体価40倍以上の割合は上昇していた。罹患者の急性期のHI抗体価40倍以上の率は、H1N1pdm09 14%、H3N2 14%、B 31%で、H1N1pdm09感染者の殆どがHI抗体価40倍以下であり、以前の罹患かワクチンによる抗体価の上昇が得られていない人が罹患したことが判明した。H3N2およびBの罹患者においても HI抗体価40倍以上の割合は低く、抗体価が高い人での感染リスクは低いと考えられた。罹患後には殆どの症例で抗体価は40倍以上になっており、ノイラミニダーゼ阻害薬による治療により抗体の産生が阻害されているとは考えられなかった。

 

2. インフルエンザの流行状況とワクチン、抗イ薬の有用性について

日本臨床内科医会インフルエンザ研究班 班長 河合直樹

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2013-2014年シーズンの流行はウイルス培養検査でH1N1pdmが35.3%、AH3N2(香港型)が19.1%、B型が45.6%の混合流行で、この2シーズン国内でほとんど見られなくなっていたH1N1pdmが今シーズン再流行したのが注目された。ただH1N1pdm罹患例は2009-10年のパンデミック時は10代を中心とした20歳未満が多かったのに対して、今回は成人や高齢者が多く、小児の大部分はB型であった。また罹患中の最高体温は特に高齢者ではH1N1pdmよりもH3N2の方が高く、いずれの年代でもH1N1pdmやH3N2よりもBが低い傾向にあった。

本シーズン、H1N1pdmが流行したことにより近年開発された亜型鑑別キットの性能を検討できたが、培養と比較して、A亜型鑑別迅速キット(ラインジャッジ)の診断能(一致率)は90数%以上あることが確認された。また本シーズンのワクチンは特にA型に対して9歳以下の発症率が非接種群13.5%、接種群4.4%と有効と考えられた。

治療薬のノイラミニダーゼ(NA)阻害薬はいずれの薬剤も平均解熱時間(投薬開始から37.5℃未満に下がるまでの時間)がA型で26~27時間前後、B型で30~40時間前後と有効性は高かった。また各薬剤投与後のウイルス残存率(投与開始5±1日目)は各(亜)型ともほぼ10%以内に収まっていたが、B型と15歳以下のH1N1pdmで若干高い傾向がみられた。

2009-10年~2013-14年の5シーズン間に培養検査を実施した約2000例中、インフルエンザの複数回感染例は約3%にみられたが、2009-10年にH1N1pdmに罹患した548例中、2013-14年シーズンに再度H1N1pdmに罹患が培養で確認されたのは1例(0.18%)のみであった。

結語:2013-2014年シーズンは2010-11年シーズン以来のH1N1pdmの流行がみられたが、流行年齢は前回大流行時の小児と異なって今回は成人や高齢者が中心であり、H1N1pdmの再感染例もごく限られていたことから、今回のH1N1pdm流行は前回2009-10、2010-11年に罹患を免れた症例が中心と考えられた。詳細は10月発刊予定のインフルエンザ診療マニュアル2014-2015年版(第9版)をご参照いただきたい。

 

3. インフルエンザA/H1N1/pdm09を再考する

日本臨床内科医会インフルエンザ研究班 副班長 廣津伸夫

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2009/10年のH1N1pdm09(H1pdm)の特徴の一つとして、若年層における重症呼吸器障害がある。当然、このウイルスはその抗原性を変化しながらその後も流行が継続すると思われたが、パンデミック以降、翌シーズンに見られたものの、その後の2シーズンではほとんどなく、H1pdmはあたかも消滅した感があった。しかし、今シーズン再び、A/H3N2とBと共に全国に広がった。そこで、今シーズンの流行を検討し、H1pdmウイルスを再考した。

まず、インフルエンザの再感染を観察することによりウイルスの性質を推測した。2009/10年シーズンにおけるH1pdm罹患者の前年度の罹患状況を調べたところ、前年にインフルエンザA(Flu-A)に罹患した23.7%がH1pdmに罹患し、インフルエンザB(Flu-B)では47.5%であった。このことより、パンデミック前年のFlu-A罹患者はFlu-B罹患者よりH1pdmに罹患しにくく、H1pdmとFlu-Aは共通抗原を持つと思われた。さらに、今シーズンのH3N2とBの罹患者における2009/10年のH1pdm罹患の既往歴を調べたところH3N2では11%、Bでは30%がH1pdmに罹患していることが分かり、H1pdm罹患がH3N2の罹患に影響していることがうかがわれた。また、2009/10年、2010/11年、2013/14年のH1pdm罹患者は重複してH1pdmに罹患する症例は無かったことから、H1pdmの抗原性は発生時から変化していないと考えられた。

次に、家族内感染を2009/10年のパンデミックとそれまでのFlu-Aとで比較したところ、新型ゆえ高くなろうと予想された感染率は7.3%で、季節性の9.2%よりも低かった。この理由は、パンデミックでは、感染防御対策が充分であったためと考えられた。そこで、両者が同時に流行した今シーズンに比較したところ、H1pdmは8.6%と、H3N2の6.3%より高く、H1pdmの方が感染率が高いという結果を得た。

また、パンデミックではウイルスの病原性の強さを示すものとして小児における重症呼吸器障害があり、当院では7名の緊急搬送を行ったが、今シーズンも1例の人工呼吸管理を要した症例を経験したので、その詳細を報告した。