第17回インフルエンザ夏季セミナー速報

講演1 :「2017-2018年シーズンのウイルス分離状況とノイラミニダーゼ阻害薬感受性」
日本臨床内科医会インフルエンザ研究班リサーチディレクター    池松秀之

DrIkematsu_L.jpg日本臨床内科医会のインフルエンザ研究では、インフルエンザワクチンの効果と抗インフルエンザ薬の効果についての検討を毎年行っていますが、特別研究として、患者さんからウイルス分離をして種々の検討を行っています。今回、2018-19年シーズンのHI抗体価、ノイラミニダーゼ阻害薬への耐性動向調査で得られた知見を紹介します。

2018-19年シーズンはウイルス分離のための検体が277例の患者さんから504件集まり、結成はワクチン接種前後のペアが136ペア、急性期と回復期のペアが52ペア集まりました。
ワクチン接種前後のHI抗体価の比較では、4倍以上の上昇例は少なく、成人での抗体価の上昇は限定的であり、特にB型では抗体価の上昇はあまりみられないという成績でした。一方、インフルエンザ発症者ではHI抗体価4倍以上の上昇が多くみられました。感染によりHI抗体価は上昇しており、宿主では免疫応答が確実に起こっていると思われました。

現在日本では、抗インフルエンザ薬であるノイラミニダーゼ阻害薬による治療が一般的に行われています。そのため耐性ウイルスの出現は大きな問題となります。ノイラミニダーゼ阻害薬への耐性ウイルスとしては、A/H1N1pdm09の数%に、オセルタミビルおよびペラミビルへの耐性を示すウイルスの流行が報告されています。これまでの調査では、A/H1N1pdm09の流行がみられた時には、その数%に、オセルタミビルへの耐性が認められていました。2018-19年シーズンはA/H1N1pdm09とA/H3N2が流行の主体でしたが、A/H1N1pdm09にノイラミニダーゼ阻害薬耐性ウイルスはみられませんでした。その他の薬剤に対しても耐性化が進んでいる兆候はありませんでした。

バロキサビル投与例57例で治療開始前および5日後前後のウイルス分離が実施され、8例から治療開始後5日目前後にウイルスの残存がみられました。ウイルス残存例で解熱時間の延長は明らかではありませんでした。残存したウイルスにバロキサビルへの耐性変異がみられるかについては今後検討を行う予定です。

講演2 :「2018-2019年シーズン日臨内インフルエンザ研究成績より
-インフルエンザの流行状況とワクチンおよび抗インフルエンザ薬の有用性」
日本臨床内科医会インフルエンザ研究班々長    河合直樹

DrKawai_L.jpg日本臨床内科医会インフルエンザ研究班では2000-01年シーズン以降、毎年インターネットを用いたインフルエンザ調査研究を実施し、インフルエンザの流行状況、ワクチンおよび抗インフルエンザ薬(抗イ薬)の有効性などを毎年検証してきた。今回は直近の2018-19年の日臨内研究成績について報告する。

2018-19年シーズンの流行状況は、当初からA型が流行し、特に1月初~中旬に大きなピークがみられたが、2月以降、流行は急速に下火になった。前シーズン(2017-18年)に終始B型が大流行したことに比べると2018-19年シーズンはB型の流行はシーズン終盤にわずかにみられただけであった。A型の亜型別では、いずれの年代でもH1N1pdm型よりもH3N2型が優位であり、H1N1型では近年また20歳未満の割合が増加してきている。

ワクチンの有効性は9歳以下(p<0.001)と30代(p<0.05)で有意に高く、全年齢(Mantel-Haenszel検定)でも比較的有効性が高かった(p=0.0512)。

抗イ薬では、新しいキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬のバロキサビルの使用率増加が10歳以上で目立ち、特に60歳以上では34.7%の患者で使用された。

抗イ薬投与開始後の解熱時間からは、使用例のやや少ないザナミビルとペラミビル以外の各薬剤の有効性はそれほど大きな差はないものの、前シーズンに続いて、若干オセルタミビルは香港型に、ラニナミビルはH1N1pdm09型に有効性が高い傾向がみられた。

バロキサビルは使用例が成人、高齢者にやや偏っていたものの、解熱時間(A型:24.5時間)およびウイルス残存率ではNA阻害薬よりも有効性がやや高い傾向がみられた。ただ本薬は18-19年シーズンの国立感染症研究所の報告でも高率(9.0%)に耐性ウイルスが報告されたことから、特に小児・若年者の使用については、引き続きウイルス変異、耐性について検討していく必要があると思われる。

今冬(19-20年シーズン)に向けては、新たにラニナミビルのネブライザー製剤が登場した。これにより従来はほぼオセルタミビル・ドライシロップ一色であった幼小児の診療に大きな変化がみられることも予想される。今後も引き続きインフルエンザ診療の調査研究を継続し、患者にとって最適なインフルエンザ診療に向けて検討を重ねたい。